「きれいなおねえさんは好きですか?」三代目・片瀬那奈は、未だに一般的に紹介される際には「アノ!きれいなおねえさん」と呼ばれます。彼女が件のCMに出演していたのは、2001年から2002年までの二年間(19歳〜20歳時)で在り、歴代の襲名者の中でも短期間でした。そして、降板後、既に丸四年も経過しています。
「きれいなおねえさん」が代名詞になるまでの二年間(1998年10月〜)、彼女は「あの水着ショーで紐が取れちゃったコ」と云われ続けました。いや、はっきり云えば、本人も積極的に其のハプニングを「売り」にしていました。多くのドラマに抜擢され、着実に女優として成長していても、世間は「アノ水着のコ」としてしか認識しなかったのです。
其のイメージを覆す為に用意された「きれいなおねえさん」は、見事に成功しますが、今度は其れこそが「片瀬那奈」の足枷となってしまう歴史の不条理を繰り返すこととなりました。
例えば、初代なら「代議士の妻」、二代目は「国民的大女優で視聴率女王」、四代目は「ケイゾク→松子の個性派女優で、歌手としても成功」、そして現・五代目は「ドラマ、映画、CM、歌手と大活躍!大河ドラマ主演も成功し、正月映画も主演し、紅白の司会もこなすマルチで旬な女優」などと云われるのが先で、わざわざ「きれいなおねえさん」なんて紹介する必要がありません。
勿論、此れは世間一般での評価なのですが、大衆は残酷なほど正直です。つまり、片瀬那奈が未だに「きれいなおねえさん」と呼ばれるのは、其れ以外に大衆にまで届く仕事を残していないからに他なりません。
今年を席巻した数々の怪優ぶりも、バラエティー番組の司会も、まだまだ「きれいなおねえさんなのに意外なギャップ」としてしか伝わってはいないのです。「きれいなおねえさん」を降板して専念した歌手時代など、もはや「伝説」化しているのではないでしょうか?
そんな「器用貧乏な」片瀬那奈は来年、初舞台に挑みます。本人には妙な気負いは無い様ですけど、此れは大きな事件です。作・演出を手がける鴻上尚史氏は、そんな片瀬にこう期待を寄せています。
「舞台の演技に対するカンの良さがある。ずっとステージで歌っていた経験が、生かされている。抜群の運動神経とスタイルの良さで、素晴らしい舞台女優の誕生を目撃すると思います」(2006年11月1日付 スポーツ報知より引用)片瀬那奈が歌手時代に唯一、レギュラー司会をしていた「新・真夜中の王国 03」(2003-2004 NHK-BS2)に、鴻上さんも出演していたのです。彼は、歌手・片瀬那奈を観ているからこそ、こんなにも期待し確信しているのでしょう。
だから、きっと、片瀬那奈の初舞台は、こう証明します。
「やっぱり、片瀬那奈も僕たちも、ちっとも間違っていなかった。」(つづく)
初出「COPY CONTROL」 (小島藺子)