1. あたしのあにさんえー、巷では、本家の大師匠、御大ポールさまが4年振りのスタジオ盤だってことで、大騒ぎになってますけど、ウチのタツローあにさんなんか、那奈年振りなんでございます。ええご身分ですなって?滅相も無い。御大が4年間ぼけーっとしてたわけじゃない様に、クマあにさんも鬼の様に音楽を作りつづけているわけです。
7年の間、何もしてなかったわけではないことは、おそらく御贔屓さん以外でも知っているでしょう。あにさんの場合、古典の編集盤ですら新作同様の力を注ぐことは有名だし、おかみさんの作品も全面的に共同制作していますから、高座いやさツアー以外の時ってぇのは、常にスタジオでレコーディングしているんじゃねーの?って位、働いています。
J-WAVEでは「KISSからはじまるミステリー [ feat. RYO (from ケツメイシ) ]」がヘビロされてて、おいおい、唯我独尊のあにさんも時流に乗ったのか?なんて思われる方もいるかもしれません。キンキなんとかに書いた曲のセルフ・カヴァーで、相方がケツメイシ、普通なら「もーだめぽ」な展開ですけど、あにさんはあくまでもあにさんでした。此の曲に顕著な様に、今作ではレコーディングの方法自体を根本から変えています。50過ぎて、新たな挑戦ですよ。しかも、根っからの頑固さとガッツは不変なんですからね。あたしゃ、もう、驚きましたよ。此れを聴くと、あにさんがアイドル歌謡やJ-POPもしくはJ-HIP HOPに阿ったなんて感想は絶対に出てきませんな。やっぱ、あにさんは芸の鬼だよ。今日も午前中のJ-WAVEに出て、平気でバリーマンの話とか始めちゃうしなぁ。作曲家で聴くなんて発想が、もう時代と掛け離れておりますな。
ま「昔はガチンコで向き合う聴き方しかなかった」とか「だから、此れは部屋でヘッドフォンでひとりで聴け」とか云う頑固オヤジのヨタ噺に、仕事の手を止め大きく頷くあたしもあたしだけどね。悔しいけど、此のあにさんが居なけりゃ、あたしの音楽道は全然別のモンになってました。あにさんは、死ぬまであにさんでいて欲しい。クマあにさんは、大丈夫。全く心配しておりません。
ところで、肝心の師匠の方は、21年も新作を披露してないんですけど、古典でずっと行く気なんですかねぇ。
2. メドレー / 変わる過去〜捏造される未来リミックス&リマスター盤の「WALLS AND BRIDGES」を手に取って、「あれっ?」と思った。ジャケットが違うのだ。
此の作品はアナログ時代には変型ジャケットで発売されていた。表には、ジョンが子供の頃に描いた水彩画が使われていて、でもそれは三分割されている。裏を見るとサングラスを沢山かけたジョンのアップで、三分割された部分を重ねてジョンの表情が変わると云う遊びが出来るモノだった。CD化された時に、そんな凝ったジャケットは再現出来ないので、表の一番下に隠されていた「Football」の絵が選ばれた。ところが、今回は本来は裏だったジョンのアップだ。しかも、御馴染みの「性悪な詐欺師」みたいな胡散臭い顔でも、「なさけない素顔」でもない。眼鏡を沢山かけてはいるけれど、なんだか優しそうな笑顔の写真になってしまった。裏が舌を出したジョンってのが救いだけど、なんだかなぁ。
此のオリジナル・ジャケットの裏は、ビートたけしや森高千里もアルバム・ジャケットでパロディ化したのだけど、おそらくあまり認知されなかったと思う。たけしは「俺たちのビートルズ・ソング」と云う曲を自ら作詞して歌っているし(但し、収録されたのは別のミニ・アルバム)、森高は其の作品(「TAIYO」)でベタ過ぎるが「HERE COMES THE SUN」をコピーしている。森高には「ペパーランド」と云うアルバムや「EVERYBODY'S GOT SOMETHING TO HIDE EXCEPT ME AND MY MONKEY」なんてかなり通好みの曲をコピーしたって事実もある。確か、アビイ・ロード・スタジオでもレコーディングしていたはずだ。森高に関しては、世間が大騒ぎする以前に、細野さんとのコラボで「はっぴいえんど」〜「はらいそ」時代を再現した過去もあり、かなり侮れない存在。てか、あたくしは「アローン」や「ミーハー」以来のファンだったりする。
話が大きくずれたな。いや、此れでええのだ。大瀧さんの最新対談( X 内田樹氏)を読んだのだけど、やはり、あたくしたちは、なんだかんだ云っても日本人なんだなぁ。例えば、何年か経ってアリシア・キーズを語る時に欧米人からは「ウタダ」や「ハマサキ」の名は出て来ないんですよ。でも、あたくしは死ぬまでアリシアの話に「片瀬那奈」を絡めると断言しちゃうもんな。アリシアと一緒に東京事変やaikoや大塚愛が流れている世界に、あたくしたちは居るんだよね。此処で「東京事変とaikoはわかるけど、大塚愛はねーだろー」って思ったら、イタイぞ。だって、あんなもん、洋楽的な立場でみたら、同じだろ?其れに「大塚愛って、実はすぎょいんじゃまいか?」って考えているのですよ。愛ちんちんに関しては、何れ深く考察しますよ。で、勿論逆も云えるわけで、極論すると「J-POP命のひとにとって、洋楽はすべて同じ」ってことだ。愛ちんちんは「英語だから、分らん!」と、一刀両断したらしい。
「THE EXOTIC BEATLES」と云う名カヴァー・コンピ盤シリーズがある。各国で発表された「変なカヴァー」を集めたもんでして、日本からも御馴染みの「イエローサブマリン音頭」を始め、何曲か収録されてきたのだけど、一緒に「犬や猫の鳴声」でのカヴァーなんかも入っているわけですよ。つまり、J-POPの位置付けは、其処なわけよ。
話は益々トッチラかってきたけど、最新対談で大瀧さんは、会社を辞める話で「GIRL」を歌ったと云ってるんだよなぁ。確かに前は「MICHELLE」を歌ったってきいた気がするのだけど、記憶違いだったのかな。まぁどっちも「RUBBER SOUL」の曲だから、案外両方歌ったのかもしれないな。こーゆーことは、とても気になるんだよね。
大瀧さんは「(もはや音楽に)オリジナルはない」とまで云ってる。すげぇなぁ。
「「新作」と称するものはオリジナルに気がつかないか、あるいは隠しているかのカヴァー・ヴァージョンに過ぎないというのが僕の考え方。」かっこええっす、流石、師匠。あたくしも、勉強します。
3. 那奈枚目の SUGAR BABEついに「SONGS 30th Anniversary Edition」が出たよ。正確には7日に発売で、6日には店頭に並んだのだけど、ま、いろいろあったので紹介が遅れました。
今年は「NIAGARA」の30周年でありまして、師匠が二年前に予告していた「30周年盤」がスタートする年だったのです。ところが3月に出たのはレーベル二作目の「Niagara Moon 30th Anniversary Edition」だったので、第一弾の「SUGAR BABE / SONGS」は見送りなのかなぁ、と思いましたね。20周年盤CDの出来も良かったし、所属レコード会社の関係もあって師匠の一存では決められない作品ではあります。
ナイアガラの第一歩であり、彼等にとっても唯一のアルバムは、数奇な運命を辿った作品です。オリジナルは1975年4月25日にエレックから出ました。しかし、レーベルとして二作目の「NIAGARA MOON」を出した後、エレックは倒産します。エレックはインディーズだったし店頭に並ぶ期間も短かった為、この記念すべき初版は多くても500枚程度しか売れなかったと云われています。レーベルごとコロムビアに移籍し1976年10月25日に再発されますが、さっぱり売れません。なにせ、もうその時にはバンドは解散し、メムバーだったタツローたちもナイアガラから離れてしまっていたのです。タツローもター坊も1976年には、それぞれソロとしてデビュー盤を発表しています。それぞれのデビュー盤には、既に SUGAR BABE 時代にライヴで演奏していた楽曲も含まれています。そして「ひとりぽっちの師匠がもがきまくった第一期ナイアガラ」は70年代と共に崩壊し、80年代にCBS/ソニーで出直すこととなります。
1981年4月1日にソニー盤として再々発され「NAIAGARA FALL STARS」なる未発表音源集にも彼等のデモが初収録されましたが、此処で師匠の一世一代の大傑作「A LONG VACATION」が大ブレイク!!旧譜も釣られて売れ始めます。この頃には、SUGAR BABE のメムバーだったタツロー、ター坊、銀次などが次々に売れて「再評価の機運」も高まり、タツロー公認のepoによる「DOWN TOWN」のカヴァーが人気TVバラエティ番組のエンディングで使用されヒット、1982年にはオリジナル・ヴァージョンもシングル盤が再発されヒット!但しB面は「いつも通り」では無く、タツロー名儀ながら SUGAR BABE 時代の作品である「パレード」で、こちらも後にTVで使用されヒットします。此れらは「リバイバル・ヒット」ではありません。再発時に初めてヒットしたのです。ここまでが「アナログの時代」です。
CD時代に入り、ソニーから1986年6月1日に初CD化が実現します。これはオリジナル通りの曲数でしたが、全曲リミックスされており、賛否両論あったものです。あたくしはあまり好きではないです。そんな経緯からか此のCDは廃盤になり音源入手困難だった為、90年代になると「幻のバンド」との評価が定着します。所謂「渋谷系」と云われた当時の新鋭ミュージシャンがこぞって褒め讃え始め、飢餓感も高まった1994年4月10日、オリジナル・マスターでの初CD化が実現し、なんと20年前の作品がオリコン・チャートで3位まで上がると云う「奇妙な事態」となりました。「発売時は全く売れなかったのに、よっぽど今の音楽がツマンナイんですかね?」と皮肉を云いつつも気を良くしたタツローは「Sings SUGAR BABE」と云う「当時の楽曲だけのライヴ」を行い、ター坊もゲスト出演しました。二人のステージ共演は、約15年振りだったと思います。1999年には再発までされています。此れら20周年盤CDは、レーベルは「NIAGARA」ですが発売元がソニーではなく「タツローが所属するイースト・ウエスト(再発はワーナー)」からとなりました。オリジナル・マスターにボーナス・トラックが那奈曲も加えられています。
そして11年半経ち、衰えぬ人気と影響を公言する現在の新鋭ミュージシャンも現れた今、30周年盤がソニーから大瀧師匠入魂のリマスターで、実にアナログ時代から数えて「那奈回目」の発売を迎えたのです。収録されたのはオリジナルの11曲、LFデモの4曲、と15曲目までは、前回のCDと同じです。(LFデモの曲順は変更されています。)でも、その後に続く「想い」(これはあたしも初めて聴きました!)「いつも通り」のライヴと「ためいきばかり」「SUGAR」の別ミックス、「DOWN TOWN」のカラオケの5曲は、初登場音源です。(「SUGAR」の wild mix かっこえー!!)帯、ブックレット、歌詞カードなどはオリジナルのエレック盤を意識したモノで、全メムバーと大瀧さんの最新コメント付きです。価格も2100円(税込み)と値下げ!持っていないコは当然、94年盤を持っていても、買うしかないのだ。じゃあ前のCDはいらなくなったのかってぇと、「すてきなメロディー」「愛は幻」「今日はなんだか」のライヴは今回は収録されていないんだよね、ブックレットも全く違うのですよ。あはははは、やっぱナイアガラだわ。来年は「TRIANGLE vol.1」と「Go! Go!」が出るな、ホントに全部出す気ですね。つきあうよぉー。
タツローが云う通り、此の音楽は、ホントは単純に「ロケンロール」だった。だからこそ、此の音楽は永遠にかっこいいよ。
4. 伝説のグループ?笑っちゃうね。今月号の「レコード・コレクターズ」は、SUGAR BABE の特集です。
先日30周年盤が発売され、タイムリーな企画です。が。此れはタツロー本人も困惑するくらい、本当に不可思議なことだと思います。日本のバンドでこれほどまでに評価が変化した例を、あたくしは知りません。確かにタツローもター坊も、ずっと現役で活躍しているし、大瀧さんのレーベルから出たと云うことも大きいのでしょう。それにしたって、一体どーなっているんだろう?
当時のター坊の曲なんか、シリータ・ライトにもろに影響されてたりして、あたくしは萌えましたねぇ。ソロの二作目までは今でも好きです。タツローやター坊の音楽は、ずっと好きでいられると思っていたものでした。それほど、彼等は絶対的な存在だったのです。結局、SUGAR BABE 以上に好きにはなれなかったけれど、それは仕方ないことだったのかもしれません。其の事実に気が付くまで、20年もかかってしまったけれど無駄ではなかったよ。
しかし、謎だ。タツローもター坊も基本的な音楽性は変わっていないのに、何故、此処にしかあたくしにとっての「素敵なメロディー」は無いんだろう?其れは当事者であるター坊がタツローのソロ・デビュー・アルバム「サーカス・タウン」を聴いた時の感想「ああ、山下くんはこーゆー音楽がやりたかったんだ。SUGAR BABE ではできなかったんだなって思った」で説明できるのでしょう。SUGAR BABE で演奏していた楽曲も含むアルバムで、全く違うアプローチをされたのですからね。
(小島藺子)
初出「COPY CONTROL」2005-9-15、12-4、12-9、12-20 全4回連作