21年前、UWFそしてジャパン・プロレスが旗揚げし、新日本プロレスは選手やフロントが大量離脱、一体どうなってしまうんだ?と云う時期に遅咲きの「プロレス者」デビューをしたあたくしは、生まれて初めての「生観戦」をした。
TVや活字では味わえない「ライヴ」の醍醐味。パンフレットを買って、出場選手をチェックする。知らない若手が沢山載っていた。前座で登場する新人たちは、みんな「ひょろひょろ」だ。此れで、大丈夫なのか?すると一人だけ体重が100キロを超えてる新人が掲載されていた。「おおっ、こいつは凄い!」期待に胸を膨らませて、そいつの入場を待った。うわっ、デカイ!しかし、こりゃもしかしたら「ただの太ったコ」なんじゃないのか?
坊主頭のお相撲さんみたいな体型の可愛い顔をした新人。其れが「橋本真也」だった。
訃報を友人からのメールで知り、俄に信じられなかった。昨年からの団体崩壊、借金を一人で背負い、私生活でのスキャンダル、右肩の手術、と悪いニュースばかりが続いた。でも、彼ならリングに復帰しさえすれば、そんなことはすべて吹っ飛ばしてしまうはずだ。小川直也が泣いていた。蝶野正洋が泣いていた。武藤敬司は言葉を発せられなかった。
「2ちゃんねる」の「プロレス板」は、黒に赤の橋本カラーとなり、スレは「橋本」一色になっていた。翌朝のスポーツ紙は、すべて一面が「橋本」だった。そして、東京スポーツは8面の追悼紙面だ。
確かに、あの愛すべきプロレスラー「橋本真也」は死んでしまったんだろう。
あたくしが最も足繁くプロレス会場に行っていた10年前、新日のメインは橋本真也だった。高田を倒したIWGP戦には、胸が熱くなった。小川のデビュー戦での負けには、本気で怒った。ゼロワンの旗揚げで三沢にフォール負けした後、オールスターでの大乱闘、「してやったり」の表情で引き上げる奴に惚れた。
ファンの男の子と戯れる橋本の写真を観て、涙が止まらなくなった。
あんまりだよ、哀しいよ、橋本。
初出「COPY CONTROL」 (小島藺子)