スーパーで酒の肴を物色していたら、母親に連れられたガキが「ママ、今日はこどもの日だからステーキにしてよ」などと強請っているじゃないか。母親は「え、ステーキかぁ、でももう此れ買っちゃったし」と躊躇してたのだが、ガキは譲らず「だって毎年、こどもの日はステーキでしょ?ステーキ!ステーキ!」と騒ぎ出した。よし、分った、母親が云えないなら、あたくしが云ってやる。
おまえな、何が「こどもの日だから」だよ、何が「ステーキ」だよ。おまえみたいなガキに喰わせる牛肉なんてぇのはな、今の世の中の何処を探したって無いんだぞ。東京スポーツを隅から隅まで読んでみろっ!何?知らない?!ぼけっ!おまえみたいな短絡的で刹那的で訳知り顔のガキのせいで、今プロレスがどんな風になってるのか分ってんのか?肉を喰っていいガキってのはな、将来プロレスラーになるって決めてる奴だけなんだよ。
おまえに、あの過酷なトレーニングに耐える覚悟は在るのかと問い詰めたい。しかもだ、その過酷な修行の後に待っているのは「暗黙の了解」と云う不条理な世界なんだぞ。肉体的にも精神的にもボロボロになってしまう、そーゆー人様に後ろ指さされながらも奉仕する「男風俗」みたいな辛い職業に就くってガキだけが、肉を喰えるんだ。おまえなんざぁ「吉野屋」でいまだに牛丼を喰えないってことの事情すらも知らないのにステーキなんて百万光年早いっ!日本人なら「米」を喰え!!お母さん、いいですか、これから此のガキを「吉野屋」に連れていったら「メシと玉!」と注文させる様に躾けなさい。其れは兎も角、あたくしはおまえの斜め後方にある「白モツ」を買って、ホルモン焼きを作って酔っぱらいたいんだから、さっさと消えろっ!!
あたくしが脳内で説教したのが効いたのか、結局ガキはステーキを喰えなくなったのだが、あたくしはこれからホルモン焼きを食べるのです。だって、大人だからね。
初出「COPY CONTROL」 (小島藺子)